Learn More About Patent Reform and Intellectual Property

米国特許法改正法(Patent Reform 2011: The America Invents Act – HR 1249)

先願主義を取り入れるなど大幅改正された米国特許法改正法が9月16日に制定された。条項により施行日が異なり、多くは制定後一年であるが、先願主義に関する条項は18ヶ月、費用関係は制定後10日、また、ベストモードやマイクロ出願人の減額措置は制定と同時に施行されるなど、経過措置期間が条項により異なるので注意が必要である。

改正ポイント

1.先発明から先願主義へ
アメリカも先発明主義から先願主義になる。そしてこの先願主義の立場から先行技術を再定義し、有効な出願日より先のものとした。また、公然使用、販売も米国内の限定がなくなった。但し、出願人が先の開示、先の出願よりも先に発明を開示している場合(以下のグレースピリオドの期間内である必要があるが)は該先の開示、出願は引例にならない(ここで言う出願人とは発明者、共同発明者、そしてその発明の譲受人である)。また該先の出願の発明者全員が後の出願の発明者でもある場合、また同じ譲受人に譲渡されている場合は該先の出願は引例にならない。更に、以下で述べる真の発明者決定手続により先の出願にかかる発明が後の出願にかかる発明から派生したものであると認定された場合は、該先の出願は引例にならない。このようなアメリカの先願主義はFirst inventor to file system (FITF)と称されている。
第三者が出願したか否かにかかわらず、出願人による公表から特許出願するまで1年間のグレースピリオドが与えられる。出願前に発明を公開しない出願人には、グレースピリオドはない。

2.法定発明登録(SIR)の廃止
法定発明登録制度(SIR)とは、特許出願の係属中に特許を受ける権利を放棄して、発明を公開登録する制度である。これにより他者に特許されることを阻止できたが、利用頻度がかなり低く、廃止となった。

3.真の発明者決定手続
同一発明の場合に先発明の決定をしていたインターフェアレンス手続 (interference practice) が廃止され、新たに真の発明者決定手続 (derivation proceedings)が導入された。真の発明者決定手続は、第三者が出願人の発明を利用した場合に、出願人によって該第三者の出願公開から一年以内に申し立てられる。PTAB(Patent Trial and Appeal Board)で審査され申し立てが認められれば該第三者の出願は引例にならない。

4.虚偽表示
虚偽表示訴訟における被告の負担軽減のためにアメリカ政府のみが虚偽表示違反を理由として提訴できる。但し、違反行為によって損害を被った者は、補償的損害賠償を求め提訴することができる。

5.施行日
先願に関する条項と真の発明者決定手続については、制定されてから18ヶ月後に施行されるため、有効な出願日が制定から18ヶ月以降の出願について、改正法が適用される。それ以外の多くは改定から1年後に施行となるが、ベストモードに関する条項のように直ちに施行となったものもある。

6.宣誓書
発明者には、主題発明についての発明者である旨の宣誓書を提出する義務があるが、発明者が宣誓書にサインすることを拒否した場合、発明の譲受人が代替のステイトメントを提出できるようになる。

7.譲受人による出願
主題発明について権利を有する譲受人は、その名の下で特許出願をし、特許を受けることができる。

8.先使用権
以前は、先使用権は、ビジネスモデル特許にのみ認められていたが、改正法では、一定の要件のもと(出願又は発明の開示の一年以上前に発明を実施、商業化している等)、全ての発明について認められる。但し、政府が助成し得た発明に関する大学等が所有する特許に対しては先使用権は認められない。改正法制定後に発行される特許に対して先使用権が認められる。

9.特許表示
「Patent」や「Pat.」と付して特許番号を記載するか、または特許番号が記載されているURLを記載することができる。

10.特許付与後の手続き
新たに、特許付与後異議申立制度(post-grant review)を規定した。特許付与後異議申立では、特許付与から9ヶ月以内に、新規性違反(102条)、自明(103条)、記載要件違反など、ベストモードを除く幅広い特許無効理由に基づく申立が可能である。少なくとも一つのクレームで申立人が勝つ合理的な蓋然性があると判断された場合は当事者系で審議が開始される。特許付与後の手続きであるが通常の特許と異なり有効性の推定(presumption of validity)はなく通常の審査と同様に審査される。
また、現行の当事者系再審査手続を変更して、当事者系特許付与後異議申立手続(inter partes review)を規定した。当事者系特許付与後異議申立手続は、特許付与後9ヶ月以降又は特許付与後異議申立手続きの終了時から、特許存続期間中に申立可能である。かかる当事者系特許付与後異議手続では、先行技術に基づく新規性違反(102条)、自明(103条)のみに申立理由が限定される。また、民事訴訟が起こされている場合は上記の手続きはできない。
いずれの手続きにおいても、申立人は利害関係がある者であり匿名にすることはできない。なお、上記2つの手続きは特許庁が判断する前に、当事者間で和解することもできる。

11.明細書ベストモード開示条件の無効理由等からの除外
ベストモード要件は、112条で引き続き要求されるが、特許の取消、無効、権利行使不可となる理由からは除外される。

12.情報提供
第三者による情報提供が、(1)Notice of Allowanceの前であって、(2)公開から6ヶ月以内又は最初の拒絶理由通知のいずれか遅い時期まで可能になる。提供された情報は審査で考慮される。

13.費用
全ての庁費用に15%のサーチャージが課せられる。また、4,800ドルを払うことにより優先審査を受けることができるようになる。これらの改正は、制定後10日後から適用される。
さらに、マイクロエンティティのカテゴリーが新たに設けられ、該当すれば75%の費用の減額を受けることができるようになる。この規定は制定後直ちに施行される。

14.補充審査(Supplemental Examination)
特許無効に対抗するため、特許権者が特許性の再検討又は情報の修正を求めて先行技術文献等の情報、見解を庁に提出することができる。これにより審査中の瑕疵等を手当てすることも可能となる。Director により特許性に関する実質的な新しい問題があると判断された場合には、査定系再審査(ex parte reexamination)が命じられる。審査段階で考慮されなかった、不適当に考慮された、誤って判断された行為があっても、この補充審査で考慮されれば、その特許は権利行使不可にはならない。もし、Directorが、重要なFraudを発見した場合には、Directorは特許の取消等をすることができる。例外を除き補充審査中も特許権の行使は制約されない。

15.弁護士の助言
侵害者が弁護士の助言を受けていなかった場合も、それ自体が故意の侵害又は侵害の誘発の証拠とされることはない。

16.ビジネスモデル特許の経過措置
8年間の経過的付与後異議期間を設け、一部のビジネスモデル特許の特許の有効性を判断する。申立人は、当該特許の特許侵害で訴えられた被告とする。この場合の申立期間は、特許付与後9ヶ月以内に限定されるものではない。

17.除外される特許対象
特許対象から人体組織(human organism)又はこれを一部に含む発明が除外される。また、納税義務を減らしたり、繰り延べしたりするような戦略税制上の戦略は特許性がないとされる。これらの規定は制定後直ちに施行される。

(上記の要約は改正法の概要を紹介する目的で作成されたものであり、個々の条文を正確に要約することを意図したものでありません。個々の条文の内容に関してはオリジナルの条項を参照してください。)

アメリカも先発明主義から先願主義になり、先願主義の立場から先行技術を再定義し、有効な出願日より先のものとしている。また、公然使用、販売も米国内の限定がなくなった。但し、出願人が先の開示、先の出願よりも先に発明を開示している場合(以下のグレースピリオドの期間内である必要があるが)は該先の開示、出願は引例にならない(ここで言う出願人とは発明者、共同発明者、そしてその発明の譲受人である)。また該先の出願の発明者全員が後の出願の発明者でもある場合、また同じ譲受人に譲渡されている場合は該先の出願は引例にならない。更に、以下で述べる真の発明者決定手続により先の出願にかかる発明が後の出願にかかる発明から派生したものであると認定された場合は、該先の出願は引例にならない。
第三者が出願したか否かにかかわらず、出願人による公表から特許出願するまで1年間のグレースピリオドが与えられる。出願前に発明を公開しない出願人には、グレースピリオドはない。
先願主義に関する条項は2013年3月16日から施行となります。詳しくは以下を参照ください。
Examination Guidelines for Implementing the First-Inventor-to-File Provisions of the Leahy-Smith America Invents Act (17Jul2012)
http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2012-07-26/pdf/2012-17898.pdf

Changes To Implement the First Inventor To File Provisions of the Leahy-Smith America Invents Act (17Jul2012)
http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2012-07-26/pdf/2012-18121.pdf

発明者による発明の公然でない商業実施
改正前特許法102条(b)は米国での発明の公然の使用は法定拒絶条項(statutory bar)のトリガとなると定めていた。また、発明者による公然でない発明の実施は、法文上明確ではなかったが、法定拒絶条項のトリガとなると解釈されてきた(Judge Learned Hand’s Metallizing Engineering opinion in 1946).
改正法(AIA)でも、発明者による公然でない商業実施が法定拒絶条項の対象となるか否かを法文上明確にしていない。しかし、AIA 102条(a)は、法定拒絶条項の対象として、従来の「patented, described in a printed publication, in public use, or on sale」に加え、新しく「or otherwise available to the public before the effective filing date of the invention」を追加している。これは、広く「public」なものを対象とする趣旨であり、秘密裏の実施、個人的な販売活動は法定拒絶条項の対象から除外されると一般には考えられているが、法文上は明確ではない。

グレースピリオド中の使用及び販売
AIA 102条(b)は、グレースピリオドの期間を定めると共に、出願前の発明者自身の開示をその例外としている。AIA 102条(b)(1)(A)においても、出願前1年以内の発明者等による発明の開示は、先行技術とはしない旨が定められている。また、AIA 102条(b)(1)(B)においては、第三者が発明内容を開示した場合でも、発明者等がその前に発明内容を開示していれば、やはり先行技術とはされない旨が定められている。AIAは、「開示(disclosure)」については定義していない。このため、使用や販売がなされた場合、この「開示」に該当するか、明らかではない。この点、特許庁は、102条(b)における「開示」は、102条(a)の定める「patented, described in a printed publication, in public use, or on sale, or otherwise available to the public, or described in a U.S. patent, published U.S. patent application, or WIPO published application」を全て含むと解している。このため、発明者等による公然実施や販売などは、102条(b)の例外として扱われることになると考えられる。しかし、上記したように公然でない実施は法定拒絶条項にはならないとすると、AIA 102条(b)(1)(B)で第三者が発明を開示した場合の例外規定の適用を受けることもできないことになる。

第三者の発明の開示の同一性の解釈
上述したように、AIA 102条(b)(1)(B)においては、第三者が発明内容を開示した場合でも、発明者等がその前に開示したと同じ内容であれば、先行技術とはされない旨が定められている。しかし、ここで「同内容」と言った場合、同一とはどのような内容を意味するのか?例えば、まったく同一ではないが、自明なバリエーションの範囲にあるような開示内容も先行技術とならないのであろうか?先に開示された発明者等による発明内容が後に開示された第三者による発明内容よりも狭い、あるいはその逆だったらどうなるのか?AIAにはその解釈は明示されていない。
提示されているガイドライン案では、特許庁は、第三者の開示内容が先の発明者等による開示内容と全く同一の場合のみ(その範囲に限って)、AIA 102条(b)(1)(B)の適用を認める、即ち先行技術とはしないとしている。よって、第三者の開示内容が、先の発明者等による開示内容の本質的でない変更、又は自明なバリエーションである場合は、AIA 102条(b)(1)(B)の適用は認められないことになる。特許出願等の後願排除効を規定したAIA 102条(b)(2)(B)についても、同様の扱いとなる。
このため、ガイドラインに沿って考えると、自己の発明を発明者が開示した後、その自明なバリエーションを第三者が開示した場合、第三者の開示した発明が先行技術となるから、出願された発明に対し、103条の拒絶理由が出されることになる。もし後からの第三者の開示した発明が発明者の発明に由来するものであったとしても、発明者側はそれが自己に由来することを証明するため、立証の困難性に直面することになる。AIA 102条(b)(1)(B)は、実際にはきわめて適用範囲が狭いと考えられる。
ガイドラインはまだ案の段階であり、個別のケースについての説明がされているものではないが、もしこれが採用された場合、裁判所の判断が待たれることになるだろう。

特許付与後異議申立(post-grant review)では、特許付与から9ヶ月以内に、新規性違反(102条)、自明(103条)、記載要件違反など、ベストモードを除く幅広い特許無効理由に基づく申立が可能である。少なくとも一つのクレームで申立人が勝つ合理的な蓋然性があると判断された場合は当事者系で審議が開始される。特許付与後の手続きであるが通常の特許と異なり有効性の推定(presumption of validity)はなく通常の審査と同様に審査される。
また、現行の当事者系再審査手続を変更して、当事者系特許付与後異議申立手続(inter partes review)を規定した。当事者系特許付与後異議申立手続は、特許付与後9ヶ月以降又は特許付与後異議申立手続きの終了時から、特許存続期間中に申立可能である。かかる当事者系特許付与後異議手続では、先行技術に基づく新規性違反(102条)、自明(103条)のみに申立理由が限定される。また、民事訴訟が起こされている場合は上記の手続きはできない。
いずれの手続きにおいても、申立人は利害関係がある者であり匿名にすることはできない。なお、上記2つの手続きは特許庁が判断する前に、当事者間で和解することもできる。
特許付与後の手続きに関する条項は2012年9月16日から施行されます。詳しくは以下を参照ください。
Changes To Implement Miscellaneous Post Patent Provisions of the Leahy-Smith America Invents Act (25Jul2012)
http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2012-08-06/pdf/2012-18530.pdf

宣誓書

発明者には、主題発明についての発明者である旨の宣誓書を提出する義務があるが、発明者が宣誓書にサインすることを拒否した場合、発明の譲受人が代替のステイトメントを提出できる。
譲受人による出願
主題発明について権利を有する譲受人は、その名の下で特許出願をし、特許を受けることができる。
発明者の宣誓書に関する条項は2012年9月16日から施行されます。詳しくは以下を参照ください。
Changes to Implement the Inventor’s Oath or Declaration Provisions of the Leahy-Smith America Invents Act (17Jul2012) [FORMS PREVIEW PAGE]
http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2012-08-14/pdf/2012-17907.pdf

補充審査(Supplemental Examination)

特許無効に対抗するため、特許権者が特許性の再検討又は情報の修正を求めて先行技術文献等の情報、見解を庁に提出することができる。これにより審査中の瑕疵等を手当てすることも可能となる。Director により特許性に関する実質的な新しい問題があると判断された場合には、査定系再審査(ex parte reexamination)が命じられる。審査段階で考慮されなかった、不適当に考慮された、誤って判断された行為があっても、この補充審査で考慮されれば、その特許は権利行使不可にはならない。もし、Directorが、重要なFraudを発見した場合には、Directorは特許の取消等をすることができる。例外を除き補充審査中も特許権の行使は制約されない。
補充審査手続きに関する条項は2012年9月16日から施行されます。詳しくは以下を参照ください。
Changes to Implement the Supplemental Examination Provisions of the Leahy-Smith America Invents Act and To Revise Reexamination Fees (17Jul2012) [FORM PREVIEW PAGE]
http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2012-08-14/pdf/2012-17917.pdf

優先権の回復(Restoration of Priority)

アメリカのオバマ大統領が2012年12月18日に”Patent Law Treaties Implementation Act of 2012 (2012年特許法条約実施法)”に署名をしたことにより、USがホーグ条約(国際意匠保護)に加入し、特許法条約を批准し、過去に議会によって作られたホーグ条約または特許法条約に無関係な誤りを一掃することとなりました。

特に、特許法条約に関するTitle IIは、2013年12月18日に施行されましたが、米国特許出願制度に大きな変化をもたらしました。例えば、2013年12月18日より前に出願されたUS 仮出願以外の特許出願において、出願日にクレームを含まない出願をすると、出願自体が認められていませんでした。今回の新法の施行により、手数用を支払うことにより出願日以降のクレームの提出が認められることになりました。ただし、PCTの国内移行出願においては、現行のままで“クレームの一部を含んだ”出願でなくてはいけません。

もっとも大きな変化は、優先権を失効しても回復できるようになったことです。パリ条約第4条により最初の出願(Utility)から12ヶ月以内(意匠特許の場合、6ヶ月)に2番目の出願を加盟国で行えば、先行出願の優先権が認めれられてそれに伴う利益も主張できます。数年前までは優先権主張が認められる12ヶ月間を過ぎてからの出願に対しては、全く救済措置がありませんでした。PCTが最近になり、12ヶ月を過ぎても14ヶ月以内の出願(つまり2ヶ月間の延長)ならば、優先権主張を認める救済策を打ち出しました。条件としては、PCT出願の優先権の回復請求は”Unintentional(故意によるものでない)”、または、”due care(相当の注意が払われた)”の観点から可否を判断されます。また回復請求はまず、RO (Receiving Office、受理官庁)に提出されなければなりません。もし、そこで棄却されても次にDO/EO(designated office/elected office、指定/選択官庁)に請求できます。この提出先により大きな違いが生じてきます。例えば、USがReceiving Officeである場合、請求の提出手数用は1410ドル掛かります。また、USはUnintentionalに基づく請求のみ受理します。これに対して、IB (International Bureau、国際事務局)をROとして選択した場合、請求の提出費用はかかりません。また、Unintentional, Due careの両方に基づく請求を受理してくれます。(ただし、IBをRO として選択する場合、外国出願ライセンスを保持しているかどうか確認してください。必要な場合はIBに回復請求を提出する前に、取得してください。)

先に、ROで回復請求を棄却された場合、DO/EOに提出することは可能と述べましたが、全てのDO/EOがPCT 出願における優先権回復請求を認めるとは限りません。USも今までは認めませんでしたが、この実施法のTitle IIにより2013年12月18日より変わりました。今回の実施法Title IIにより、一年を経過した場合でもそれが故意によるものでなく、2ヶ月以内であれば優先権(利益)の主張する権利を回復することが可能になりました。また、USの仮出願に関しても、それが故意によるものでない場合、1年経過しても2ヶ月以内であれば回復可能になりました。

Title IIにより、すでに認められた特許も含め、2013年12月18日以降、係属中である全てのUS出願(PCT, provisional)で優先権の回復請求が認められることになります。